鉄門ピアノの会 もっとピアノ曲と親しむために 〜“手”から見る作曲家〜 ②

前回の記事に引き続き、ピアニストの”手”について紹介していきます。

 

(ⅲ)ラフマニノフと“手”

モスクワ音楽院にてスクリャービンの同級生でもあったラフマニノフは、1873年にロシア北西部のノヴゴロド州で、貴族の家系のもとに生まれました。当初不真面目であったラフマニノフ少年ですが徐々に音楽家としての才能を開花させ、遂にモスクワ音楽院を首席にて卒業します(スクリャービンは次点)。高い演奏能力を誇ったラフマニノフですが、その理由の一つとしては手の大きさが挙げられます。その手の大きさはというと、手を広げることで13度 を押さえることができた(右手親指で“ド”を抑えながら、小指ではオクターブを超えて“ラ”まで届く計算になります)とのことなので本当に驚かされます。そんな人間離れした手を持ったラフマニノフは作曲活動にもその特徴を生かしており、重厚な和音を多用した作品を多く世に送り出しています。浅田真央がスケーティングに使用した前奏曲「鐘」はとても有名です。

さて、彼の大きい手は体質によるものだったのでしょうか。ある研究結果によると彼は、Marfan症候群であったのではないかと言われています。Marfan症候群は3000〜5000人に1人発症する遺伝子疾患であり、長い手足やクモ指(見た目がクモに似ている細長い指)を呈し、目の水晶体や心血管系の異常をもたらすことがある希少疾患です。真偽の程は明らかではありませんが、このような疾患が逆に彼を偉大な音楽家、ラフマニノフたらしめたと考えると、とても興味深いですね。

 

(ⅳ)ゴドフスキーと“手”

筆者が個人的に好きな作曲家です。ゴドフスキーは1870年にポーランドで医師の父親のもと生まれました。スクリャービンやラフマニノフのようにしっかりとした音楽教育を受けた訳ではなく、一流のピアニストであったかについても意見が分かれるところではありますが、ゴドフスキーの真骨頂は何といっても既存のピアノ作品の編曲です。彼の代表作品としては「ショパンの練習曲に基づく53の練習曲」が挙げられ、この作品は、かの有名なショパンによるエチュード(練習曲)の編曲によるものであり、(スクリャービンにも通ずる所がありますが)主に左手の技術向上を目的としています。例を挙げると、エチュードOp.10-6を編曲した作品 はもともと両手で演奏する曲ですが、ゴドフスキーは左手だけでの演奏求めるように編曲をしています。聴き比べて頂ければわかりますが、作品全体の完成度は原曲をも凌駕します。

ゴドフスキーは他には“異なる曲同士の旋律を組み合わせた”編曲なども手がけており、編曲方法についても賛否両論あるのは事実です。しかし彼の功績は、左手のみならず、演奏における人間の手の可能性を、編曲活動を通して広げてみせたという所にあるのではないでしょうか。

 

ここまで簡単ではありますが“手”に焦点を当てて、3人の音楽家について見てきました。筆者自身も勉強中ですが、たまにはいつもと違ったこのような視点から音楽を捉えてみるのも面白いと思います。本記事、そして鉄門ピアノの会の演奏会にて、皆様がお気に入りの音楽との邂逅を果たせることを祈って。

去年の演奏会にて

 

 

~References~

1 Eckart Altenmüller. Alexander Scriabin: his chronic right-hand pain and Its impact on his piano compositions. Prog Brain Res. 2015;216:197-215

2 D A Young. Rachmaninov and Marfan’s syndrome. Br Med J. 1986 Dec20; 293(6562): 1624-1626

3 福井次矢、黒川清(2013)『ハリソン内科学 第4版』MEDSi

4 「ピティナ・ピアノ曲事典」〈http://www.piano.or.jp/enc/〉

 

去年の記事(大沢)より引用